福岡地方裁判所小倉支部 昭和39年(わ)736号 判決 1965年6月09日
被告人 鹿子木勝
昭四・三・二八生 自動車運転手
主文
被告人は無罪。
理由
本件公訴事実は、
被告人は、
第一、法定の除外事由がないのに、昭和三九年三月二〇日、午後一〇時二五分頃、普通乗用自動車を運転して、北九州市小倉区金田、国鉄日豊線金田踏切を通過するに際し、その直前で停止せず
第二、同日同時刻頃、福岡県公安委員会が道路標識によつて、最高速度を四〇キロメートル毎時と定めた、同区田町バス停留所附近道路において、右最高速度をこえる五九キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転したものである。」というのである。
検察官は昭和四〇年三月二三日、当公判廷において起訴状の公訴事実中「昭和三九年三月二〇日」とあるを「昭和三八年三月二〇日」と訂正する旨、起訴状訂正の申立をしたが、起訴状の訂正はすくなくとも、公訴事実の同一性を害しない範囲内においてのみ許されるものと解するのが相当であるところ、一般に本件のような道路交通法違反の所為は、同一の場所、態様でも日常異なる日時に反覆して生起する可能性があるものであるから、その所為の日時は、不可分的に犯罪の重要な要素をなすものと謂わなくてはならず、日時の相異することは、各それを特定訴因とする別個の公訴事実が存在することである。
従つて、本件公訴事実中日時が「昭和三九年三月二〇日」である犯罪事実と「昭和三八年三月二〇日」であるそれとの間には公訴事実の同一性はないものというべきであるから本件の起訴状の訂正は許されないものである。
従つて審理の対象は本件公訴事実であるというべく、これを審理判断するのに、被告人が昭和三九年三月二〇日、午後一〇時二五分頃、前記公訴事実第一、第二の各所為をなしたことを認めるに足る証拠はない。
よつて、本件各公訴事実は犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。
(裁判官 白井美則 井上武次 大川勇)